2016年9月第8回SM「英国の彫り 日本の彫り技術交流」

2016年9月第8回SM「英国の彫り 日本の彫り技術交流」

イギリスからのクラフトマンとの交流

2016年9月22日(木)シンコーストゥディオが主催するジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)が彫りの技術交流会を企画。東京・上板橋の工房で開催されました。当日の参加者は40人ほど。熱気あふれるイベントとなりました。これだけジュエリーや金属工芸に携わる若手が集まることは中々無い機会でしょう。
この技術交流会は Winston Churchill Memory Trust (ウィンストン・チャーチル・トラスト財団)からのフェローシップを得てCastro James Smithさんが8月の末から日本に滞在することになったのをきっかけに、開催することになりました。Smithさんは、現在28歳、ロンドンの12世紀から続いているThe Goldsmith’ Company The Hand Engravers Association of Great Britainに所属している、伝統的なブリティッシュの彫りをする才能あふれるクラフトマンです。 

デモンストレーター5人

今回、面白い試みとして、様々な金属に彫りをするデモンストレーター5人が実演をしました。5人すべてが様々で、同じ金属への彫りと言ってもまったく違う方向性を向いているのが興味深いものでした。 国が違う、分野が違う、技法が違う、そんなことはどうでもよく、こういった壁を越えた交流からまた新しいものが生まれるような気がしています。

Castro James Smith (Engraver & Designer)

Castro James Smith (Engraver & Designer)

ロンドンのハットンガーデンにあるR.H.WILKINSエングレービングワークショップにおいてトレーニングを受け、伝統的な紋章の経験の彫りの技術を取得。The Goldsmiths’ Craft & Design Council 主催The Craftsmanship & Design Awards で金賞を受賞。

ウィンブルドンのトロフィーなどの大きな銀細工から、ロケットや指輪のなどの細かい作品の彫りをしています。現在、The Goldsmiths’ Company, Hand Engravers’ Association of Great Britain に所属し製作に励んでいる。

Castro James Smith (Engraver & Designer)

田口 史樹

ジュエリーアーティスト

田口 史樹

東京芸大大学院、平松デザイン研究所 平松保城氏に師事。東京芸術大学工芸科彫金研究室 非常勤講師、神戸芸術工科大学クラフト美術学科実習助手を経て。ヒコ・みづのジュエリーカレッジ、山脇美術専門学校等 講師をしながらアーティスト活動をしている。 [受賞暦」 2002 東京藝術大学安宅賞 2003 第七回全日本金銀創作展 全国伝産金工組合協議会会長賞 2006 第24回日本ジュエリーアート展 優秀賞   2013 Schmuck Hervert Hofman Award国際的に権威のあるコンテンポラリー・ジュエリーのアワードです。 2013 Collect Adrian Sasoon/ London

田口 史樹

坂 有利子(号・英華)

彫金師、ジュエリー・アーティスト 日本彫金会会員

坂 有利子

谷中彫金工房にて3人の彫金師の先生方に師事。 山脇美術専門学院・ジュエリー・アート科卒(現・ジュエリー・デザイン科)卒。アクセサリー関連会社2社を経て、現在 山脇美術専門学院 で講師をしながらアーティスト活動をしている。

坂 有利子

宮本 輝美

彫金師(和彫り・模様彫り・彫り留め・石留め)

宮本 輝美

東北芸術工科大学工芸コース卒。 オーダーメイドジュエリーの会社で和彫り・石留めの仕事に携わる。 現在は独立し日本のハイジュエリーブランドからの依頼も受けて仕事をしている。また、彫金教室やワークショップの指導・作品制作など幅広く活動している。

宮本 輝美

服部哲郎

洋彫り

服部哲郎

学校卒業後、料理人を目指し修行。その後転進し日本宝飾クラフト学院卒業。第2回ラフダイヤモンドデザインコンテスト佳作 第10回ジュエリータウン御徒町デザインコンテスト シルバー部門 特別賞 第4回 にいがた錺・技祭り 奨励賞などを受賞。現在、彫りの仕事を請けながら、自らのコレクションを企画中。 

服部哲郎

人が集うこと

こういった勉強会や交流会がいったい何になるのだろうか?という声も聞かれるけれど、まず色々なことに取り組んでいる人たちがいて、創造性や卓越した技術を持っている人たちが、今、必死に動いている。これは本当に心強い。
このムーブメントをいかに伝えていけるか、最終消費者の心に刺さるものにできるかは、やはりプロデューサー的な介在が必要だと痛感する。
しかし、「志しを持って人が集まるところ。」そこにはプラスの活力が生まれ、今までの古い慣習や既成概念を飛び越える力があるように感じる。 

すでに消費者も創る側も、大量生産、大量消費の経済に限界を感じており、どうしたらもの造りが人々に幸福感をもたらすことができるか?そんな課題を抱えながら、ひたむきにもの造りに挑む若手の作り手たちでした。 

人が集うこと

手仕事の将来

この先、こういった人の手による卓越した技術や創造性の行方はいったいどこなんだろうか?と思う。
すべてが手作りでやるべきだとは思わない。使えるところは、新しい技術の恩恵を受ければいい。しかし一方で必ず仕上げには、人の手が入らないと上質感が生まれず、人の想いが伝わらない。それも揺るがない事実である。そして、仕事に真摯に向き合う姿勢こそ、消費者、製作者、販売する者を包括して納得いく形を作りだす将来があるように思える。

特に、世界で支持を得る秀でたジュエリーを創るには、どこかに長い歴史を背景としたアイデンティティが必要なのではないではないだろうか?だからこそ、日本ならではの彫りの技術や鏨(たがね)を使ったテクスチャーに可能性を感じるのかもしれない。

ジュエリー・アーティスト・ジャパン’(JAJ)代表 米井 亜紀子