建築家・伊東豊雄トークセッション 「日本のこれからのモノづくり 建築×ジュエリー×金属工芸」

【読み物】建築家・伊東豊雄トークセッション 「日本のこれからのモノづくり 建築×ジュエリー×金属工芸」-その4-

読み物

建築家・伊東豊雄トークセッション
「日本のこれからのモノづくり 建築×ジュエリー×金属工芸」その4

-その3- からの続きです)

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2018年4月11日、ジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)主催で開催された建築家伊東豊雄さん、そして金工作家であり、5代目鹿島布目(かしまぬのめ)継承者の鹿島和生さん、JAJ代表の米井で語られたトークセッションの様子を皆さんが読めるように、書き起こしウェブ上に掲載することにしました。
素晴らしい言葉がたくさんあったので、それをここに書き留めておきたいと思います。
これからモノづくりをしていく人たち、特に若い人たちのために、何かの指標になるとことを願っています。
そして、「モノ」が果たす、これからの役割に関して、皆が考えていくことを期待します。

トークセッション登壇者:
建築家 伊東豊雄さん
金工作家 鹿島和生さん
JAJ代表 米井亜紀子

(氏名クリックで登壇者プロフィールへ/以下敬称略)

【質疑応答】
何人かの出席者の方々から質問を受けました。

使う人の意見をできるだけ取り入れてみようと思う

1人目の質問:
お二人がご自分の作品の思想だとか、持っている技術について、世間や対個人に伝えるときに、心がけていることってありますか。

鹿島:
聞く相手のスキルはものすごく大事だと思います。いくらでも言葉で説明できるわけではない。
相手がどういうスキルを持っているかによって言葉を変えます。

伊東:
僕らの世界は現実のモノができる前に説明しなければいけない。
それは新しいことをやろうとすると新しいことを理解してもらえない。
それでただ、僕は役所の人間には結構逆らって(笑)言うこと聞かないんですけれども、それを使う人に何か言われたときには、できるだけその意見を取り入れてみよう、それを自分で吸収して自分が考えているよりもっと良いモノになるかもしれないと思うことですね。
そうやってフィードバックしてみると、相手の人も何か「自分も一緒につくったんだ」っていう気持ちになってくれるし。自分が考えていたことがそのまま出来てしまったら面白くない、いつも変わっていくことが自分にとってはすごく興味がある。自分が想像していなかったモノになっていくのが面白い。
スタッフとの関係もそうだし、エンジニアとの関係、それを利用する場合もそうだし最終的に使う人が変わっていく。それを変えていく。
悪くなって、よくならない場合もある。
でも、そのプロセスこそがデザインだと思っています。

米井:
その通りですね。私も最近はジュエリーをつくるプロセスが本当に大事だと実感します。

建築家、リナ・ボ・バルディに見るモダニズム建築の改築

2人目の質問:
建築学科を卒業して、今は製鉄所の会社の中で設計の仕事をしています
個人的にはモダニズムは好きなんですけれど。現在、新しく建築家がつくった建物ではなく大量生産型でつくられた工場やビルなどがたくさんあると思います。この大量生産型の建築、先人たちがつくってきた工場だったり倉庫などの建物を、これからの僕の世代などがそこに付加価値を与えて、新しい建築をつくる。
新築ではなく、改築や増築をしていこうという、そういう流れが来るような気がしています。
伊東先生が、新築ではなくて残された建築に新しい自分としての命を与えながら後につなげていくとしたら、そのときには、どのような気持ちでなさいますか。

伊東:
3週間ほど前にブラジルに行ってきましたサンパウロでリナ・ボ・バルディと言う女性の建築家の建築を見てきました。感動しました。
リナ・ボ・バルディはイタリアからブラジルに移住して来た人なのですが、古い工場を改装して近隣の人たちが集まる施設に変えたプロジェクトがありました。
彼女はその工場の改装のために、オフィスを持たないでそこに10年間通って現場の職人と話ながら改装したと聞きました。古い工場の中には子供の遊び場があり、本を読む場所もあり、年寄りから子供まで集まっていました。そこにみんな集まって、明確なコミュニティをつくっているわけではないけれど。
なんとなく集まることによってひとつの気持ちになっている、本当に素晴らしいなあと思って感激したのです。
セスキ・ポンペイヤ SESC Pompeia 文化センター
逆にそういうモダニズムの建築。古い工場であったりオフィスであったり、そういうことから何かできる可能性はあると思います。
僕自身もモダニズムの建築を改築してほしいと言う話があれば喜んでやります。今、大三島でもそういう活動をやっています。

日本のモノづくりには小さな世界にも自然が生きている

3人目の質問:
もし伊東先生がジュエリーをつくれと言われたら、どんなコンセプトでジュエリーをつくるのでしょうか。

伊東:
難しいですね。
あえて言うならば、先日、米井さんから古い日本の簪(かんざし)などの本をお借りして見させていただいたのですけれども。櫛であったり、簪を見せていただいて、すごくきれいだなと思いました。
そこには、小さな形の中に自然があるという事ですね。
やっぱり、日本人のモノづくりって、そんな小さな世界にも自然が生きているっていうことに一番感動覚えました。西洋から入ってきたジュエリーがあるとすると、そこにどうやって自然をもう一回持ち込めるだろうかということを考えてみたいと思っていますね。
「そんなこと」と思っている人がいっぱいいるんだろうけれども(笑)。我々はいつでも桜を見たいと思うし、その感覚は昔からなんら変わっていない。
自分のDNAの中に存在しているものをどんなふうに、どうやってもう一度顕在化することが可能なのか。そこに尽きると思うのです。

「理不尽だ」っていうことをストックし、もっと居心地のいいものモノをつくる

4人目の質問:
年齢を重ねると感受性が鈍っていくと思うのですが、モノづくりをされてパワーみたいなものはどうやって維持しているのでしょうか。たとえば趣味のようなものもあったら教えてください。

鹿島:
モノをつくることが好きです。
私の仕事は趣味的要素が強い仕事だと思います。
けれど、結局、モノをつくるっていうことは、自分を否定するものがなければ、次にいけないと思います。実は今、つくっていないのですごく落ち込んでいるのです。落ち込んではいるのですけれど、長くやっていると過去にもこういうことがあったなあと思い出すことがあります。
一般的な人間社会は1年なら1年のサイクルで評価されることがあるんですけど、僕ら工芸の世界はもっと長いスパンで考えられる。
ですから、こういう時があってもいいのかなと考えてます。
時間をかけたり、他の勉強をしなくてはいけない趣味というのは持てないですね。アルコール消毒位ですね。(笑)

伊東:
僕もひたすらアルコール消毒好きですね。お酒飲むのはいいと思っています。
どうやって自分のエネルギーを持続するかっていうのは、やっぱり何かに対して「やってらんねーよ」みたいな気持ち、つまりフラストレーションみたいな、それは良い意味で持続したいと思っていて。
朝、テレビを見ていて「これは変だよな」ってみんな思っていると思うんですよね。
僕の場合は、オリンピックのスタジアムのコンペティションで負けました。
負けたB案と言われているのですが。圧倒的に僕の方が良かったと思っている。
やっぱり毎日、安倍さんがどうしたこうしたと言っているようなことと、すごくオーバーラップしているのです。あまり言いたくないけれども。
それはすごく僕の中ではエネルギーになっている。
それを別のところに向けていこうとしていますね。何かのきっかけで「これは耐えられない」とか、そういう気持ちを持つことがどこかで必要なんじゃないですかね。
「理不尽だ」っていうことを常に自分の心の中にストックして、それに対してもっと居心地良いモノをつくるんだよっていうことが必要だと思います。ハッピーハッピーでやっていても、なかなかうまくできないと思います。

米井:
お2人とも、マイナスの力が反動になっているように思えますが。

伊東:
やっぱりモノをつくるってそういうものじゃないかな。
何かに対してこうしたいという気持ちがないと、新しいモノにも向かわないと思います。

米井:
世の中では、一般的にあまり良しとされない感情、むしろマイナスの感情っていうのはかえって創造的なものを得ることがあると思います。

伊東:
僕はオプティミストなので鬱にはならないで飲んで解消できます。

米井:
精神的な強さっていうのは大事ですよね。

鹿島:
これではだめだというところがないと、先に進めないでしょう。
でも一方であまりにもストイックになりすぎてしまうのも良くない。

スタッフが夢を持って仕事をやれるようにしながら、一方で組織を維持する

5人目の質問:
商業ジュエリーをつくっている会社を経営しています。日本のこれからのモノづくりに関してずっと考えています。
自分の個人的な考えとして、モノづくりもしながらそれに対する対価もいただいて、利益を上げて若いモノづくりの人たちが育っていって欲しいと思っています。
お二人が若い人達の心動かすようなモノをつくるときに心がけていることは何でしょうか。

鹿島:
つくっている自分が面白いか面白くないかが、尺度ですね。

伊東:
あんまりそういう事は考えていませんね。もちろん働く人たちには、最低限生活ができる保証はする。それ以上に、ビジネスとして儲かるということは考えていません。
仕事は海外からもバンバンうけて、事務所のスタッフも40人があっという間に60人になり、100人になってしまう。そういうことだけは絶対にやらないと思っています。40人以上は増やさないと決めています。
スタッフの名前がわからなくなったらおしまいだと思うのです。
確かに、もう少し人がいたほうがいいのにと思う時もありますけれど。
またプロジェクトによっては全然儲からないってことがあって、そのために、本当に自分がやりたい仕事とは少しそれる仕事もやらなければならないっていうケースもあるけれど。
でもスタッフが夢を持って仕事をやれるようにしながら、一方で組織を維持するっていう事も大事なことだと思うのです。
仕事の上ではある程度の機動力はなければならないし、今40人というのがちょうどいいように思っています。

米井:
私は商業ジュエリーの世界にいるので、利益を上げていくということは必要だと痛感しています。経済活動の一端を担っていくことによって、初めてもの申せるというところがあると思います。
クライアントに合わせてつくって、利益を上げていくというのも、非常に難しい点もあると思いますが。

伊東:
私たちは大体コンペティションで仕事を取れるか取れないかが決まります。
それに対して設計料というのはこの規模でこういう種類の建物だと何百万、何千万円などと決まるわけです。組織事務所では、或るプロジェクトに対して、何人の労働力を使って、どれだけの営業費用を残して、と緻密に計算し設計していく。
しかし僕らは、そういうことは全く考えていないのです。赤字のこともよくある。台湾のオペラハウスなどは、5-6年で出来上がると思っていたのですが、実に11年もかかってしまった。
それでもなんとか完成にこぎつけたいと思って、ありったけのエネルギーをつぎ込んでしまいました。
なんとか事務所が維持できて、日々を送っていける程度の利益があれば、それで良いと思っています。

米井:
ありがとうございます。
もっとお聞きしたいこともたくさんあるのですが、ジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)主催の
「日本のこれからのモノづくり 建築×ジュエリー×金属工芸」のトークセッションはこれでおしまいです。
建築とジュエリーと金工がこんな風につながれるなんて、とても新しい発見ですよね。
私はいつも、違う分野の人たちとつながることが、何か新しい可能性を生み出すような気がして、新しい化学反応が起こることに心が動かされるのです。そして、このような場を設けています。

「モノ」がいらない社会だといわれます。
でも本当にそうでしょうか。
人がモノをつくるというのは、生きるそのもの。時代の流れのなかで、人がこころの底から求めているモノはなんでしょうか。その新しい価値を人の日々の生活に提案していということが、今、モノづくりをするわたしたちのすべきことのように感じています。
モノを通してわたしたちは何ができるのかを、考えながら仕事をしていきたいですね。
「日本のこれからのモノづくり 建築×ジュエリー×金属工芸」という異色なテーマで開催したトークセッション、
いかがでしたでしょうか。今後のみなさんに、なにかしら新しい気づきがあったらうれしいです。
今日はありがとうございました。


建築家・伊東豊雄トークセッション
「日本のこれからのモノづくり 建築×ジュエリー×金属工芸」

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【登壇者プロフィール】

伊東豊雄(いとう とよお)
建築家。1941年生まれ。主な作品に「せんだいメディアテーク」、「MIKIMOTO Ginza 2」、「多摩美術大学図書館(八王子)」、「みんなの森 ぎふメディアコスモス」、「台中国家歌劇院(台湾)」など。ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、プリツカー建築賞など受賞。2012年に私塾「伊東建築塾」を設立。児童対象の建築スクールや、地方の島のまちづくりなど、これからのまちや建築を考える場として様々な活動を行っている。東日本大震災後、仮設住宅における住民の憩いの場として「みんなの家」を提案し、東北では16軒、2016年の熊本地震では100棟近くが整備された。

鹿島和生(かしま かずお)
1958年東京生まれ。金工作家。江戸時代から続く、象嵌(ぞうがん)技法、鹿島布目(かしまぬのめ)5代目継承者。鹿島布目は初めて、鉄以外の金属に象嵌を施すことに成功した革命的な技法。常にイノベーションの意識が高く、時代と共に進化してきた。その技法を継承し、独特の世界観で作品を制作している。工房では海外からの留学生も多数受け入れ、後進の指導に情熱を注いでいる。伝統工芸日本金工展の受賞多数。日本工芸会正会員。彫金工房 工人舎 主宰。

米井亜紀子(よねい あきこ)
シンコーストゥディオジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)代表。
世田谷のオリジナルの宝石店を経営。お店を起点に、「つくる人」「つかう人」の関わり方を考えるモノづくりを模索、活動中。2012年にJAJの活動を始める。以来、お店を開放して小規模な勉強会、都心でのセミナー等を継続的に開催。若手のクリエイターが学べ、交流できる場所を提供。その他、商業施設その他での、クリエイター、アーティストの企画プロデュース的な仕事もしている。

【主催団体・連絡先】
ジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)
〒156-0055
東京都世田谷区船橋1-14-12 シンコーストゥディオ内
TEL TEL 03(3429)8077 / FAX 03-3429-8092
Email:info@jewelryaj.org
Website: https://jewelryaj.org/
代表 米井 亜紀子