【開催レポート】6「アプライドアートの 波がきているらしい 日本にいながら海外で活躍するコンテンポラリージュエリー・アーティスト達のトークセッション」

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「アプライドアートの 波がきているらしい 日本にいながら海外で活躍するコンテンポラリージュエリー・アーティスト達のトークセッション」その6

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2019年10月9日渋谷区文化センター大和田で、開催されたジュエリー・アーティスト・ジャパン(JAJ)主催「アプライドアートの 波がきているらしい  日本にいながら海外で活躍するコンテンポラリージュエリー・アーティスト達のトークセッション」の様子をまとめました。
今回は、ドイツ、ミュンヘンで開催される若手アート&クラフトの登竜門「Talente 2019」を受賞した、青木愛実さん、そしてコンテンポラリージュエリーアーティスト3人によるセッション。最終回です。
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3人のプロフィールはページ下をご覧ください

米井:

続いて、今年ドイツのミュンヘン・インターナショナル・ハンドワークメッセの「Talentetタレンテ」を受賞した青木愛実さんをご紹介します。

“Schmuck”シュムック  と“Talente” タレンテ

“Schmuck” と “Talentet” はミュンヘン・インターナショナル・ハンドワークメッセの期間中に発表されるプライズです。
“Schmuck”は1959年に Herbert Hofmannによって設立されたコンテンポラリージュエリーの最も歴史のある賞です。
一方、“Talentet” はクラフトとデザイン(アプライドアート)の若手アーティストのためのプライズとして1980年に設立されました。33歳までの年齢制限があり、若手の登竜門として世界的に知られています。
http://h-stew.com/etc/29904
https://artaurea.com/2019/talente-awards-2019/

米井:

青木さんは今年の4月までヒコみずのジュエリーカレッジに在籍していて、まだ23歳、「Talentetタレンテ」は今年(2019年)受賞しました。
木をつかったこの作品について少し教えてください。

GalerieMrzee Graduation Show 受賞作品 Brorch Wood Manami Aoki

青木:

この作品は檜(ひのき)のカットされた木材を、柔らかく煮詰めて、完全に柔らかくなった状態のものを、木槌で上からじっくり時間をかけて叩いていきます。 そうすると、繊維の一本一本がほぐれてこういう状態になるんです。

この作品のヒントは、アイスを食べたあとに残る木の棒です。
元々、日常にあるささいな現象などに目を向けることが好きで、棒に少し味が残って、噛んでしまったりすると、少しずつ繊維が崩れて何本もの線に分かれて「ケパケパ」した感じになって来るんです。
「なんかケパケパしてる」面白いな、とは思っていたのですが、その時はそのままだったんです。

そうこうしているうちに、学校でオランダのアーティストのワークショップを受ける機会がありました。
その時「アクシデント」というテーマでジュエリーをつくることになって、思い出したのが、アイスの棒です。
あの時は、かまぼこの板(松の木)でつくりました。
「あれ意外とこれでもケパッとするな」と思って、そこから材質を変えたり、向きを変えたり、色々試していって、今も進化途中です。
毛足の長さでは、一番長いので30cm位のものがあります。

米井:

こちらの作品はなんですか?

Broach Ideas Manami Aoki

青木:

こちらは、ヒコ・みづの研究生の時の卒業制作で、タイトルは「ideas」と言います。
世の中にある全てのものは、結局、だれかしらのアイディアからつくりだされたものじゃないですか。
でもそれをみんな、だれかの頭が「生み出したモノ」っていうことを認識しないまま使ってたりするんですよね。
日本語で「知識を溜め込む」とか言う時に「スポンジのように吸収するよね」と言いますね。
逆にアウトプットするときは「知恵を絞りだす」って言います。

という事はインプットとアウトプットの動作をスポンジ一つで表現できるんじゃないかなって思ったんです。

インプットとアウトプットを本当にシンプルな構造で表現したのが、この作品になりました。
すべてのもの、ジュエリーは「苦しんで苦しんで絞りだしたアイデアを、みんな着けているんだよ」っていうメッセージを伝えたくて、つくりました。

米井:

青木さんは、つい先日発表があった伊丹のクラフト展でも賞をとっていますね。

青木:

今年の2019伊丹国際クラフト展「ジュエリー」でグッドマテリアル賞をいただきました。

米井:

今、海外での展示もしているんですね。

青木:

最近はタイのATTAというギャラリーでグループ展示に参加しました。
1番最初は木の作品が生まれた2017年にオランダのギャラリーMarzee マゼーのGraduation Showで海外で初めての賞となるMarzee賞をいただきました。
ギャラリーMarzee はオランダの世界で一番大きいと言われている、老舗のコンテンポラリージュエリーのギャラリーで40年もの歴史があります。
ここのオーナーは、コンテンポラリージュエリーの世界では大きな影響力があり、若手を発掘するのが大好きなんです。
世界中のコンテンポラリージュエリーを学んでいる学校から、えりすぐりの人の作品を展示し、その中から賞を選ぶのですが、その賞の2017年、2018年両方ともいただきました。

ギャラリーMarzee マゼー

米井:

若手で海外へ行って、賞をとってるってとても進んでるなと思うんですけど、海外に出てみてどうですか。

青木:

元々、学校で専攻していたコースでは金属だけではなくて、いろいろな技法や素材に目を向けてつくろうという感じでした。
ですから、海外のコンテンポラリージュエリーのコンペなどに出ても、それほど違和感は感じなかったんです。
でも、実際海外の方の作品を実際見る機会があると、色々な技法や素材に目を向けていることはもちろん、決して見た目は派手ではないけれども、自分の内面を深く表現した作品も多くあると感じました。
また自分のバックグラウンド、今まで生きて来た軌跡や政治の問題などを表現した作品があって、本当に色々なアプローチがあるんだと思いました。

米井:

青木さんにとってジュエリーってどういうものですか。

青木:

正直、実際にジュエリーをつくって海外にいくようになったのは、ここ2-3年なので、 ですからまず作品を「つくらなければならない、知ってもらわなければならない」っていう気持ちが先走っていました。
最近ようやく落ち着いてきて、まだ明確には言えないんですが、自分だけの言葉を見つけて、自分だけの宝石を探すという感じです。
一般の人からしたらジュエリーっていうのは貴金属に宝石がはめられてキラキラしたものです。
でも私の作品はそのキラキラした宝石をを自分の感性に置き換えてつくっているんです。
なので、今は自分を表現できる唯一の場所かなって思っています。
ただ、これからはもうちょっと社会と自分がつながることを意識しながら制作していきたいと考えています。

米井:

松浦さんはどうしてコンペに挑戦するんですか。

松浦:

普段はオーダーを受けたり、セレクトショップに納めるための作品をつくったり、ギャラリー展示のための制作もしています。
コンペに挑戦するという事は、「自分自身が追求しているテーマを深める」という事だと思うんです。
それは作品づくりではないと出来ない事です。
その作業はとても地味で、本当に暗い森の中で微かな光を求めてさまよい、走り続けている感じなんですけれど。 でも、何かそのきっかけがつかめて作品の中に今までに無かった新しい展開が生まれた時は、自分が少し進歩したような気がしてすごく嬉しくて楽しいですね。
そしてそのプロセスはその後も’完成’はしないのですが…。

でも、この先はどんな展開があるんだろうなって思いながら、つくり続けているということがその作品を制作するってことだと思うんです。

米井:

私は全くコンテンポラリージュエリーを知らなくて、仕事も全くアートの出身ではなく、コマーシャルジュエリーを扱っています。
最初、コンテンポラリージュエリーに出会った時は、「これなんだろう?」と、「これが一般の人にとっては何になるんだろうか」という素朴な疑問がありました。
作品の中には、アーティストだけが理解していて、それで終ってしまうというようなものもあると思うのですが。 もちろんアートなので、個人から発するものとしてそういった部分はあると思います。
けれど、多分一般の人達ってアートって、難しいと遠い存在だと思っていると思います。
その時に、アートの存在意義というか、どうしてアートとしてのジュエリー、コンテンポラリージュエリーが必要なのかということを考えるんです。
前田さんはどう考えていますか。

前田:

私が感じているのは、私の作品はパールのものも多いのですが、皆さま最初はパールのジュエリーから入られて、だんだん作品ぽいものを買うようになって、そのうち作品でも大きいものを買うようになって来るんです。
服も最初は地味な紺のスーツなんかお召しになっていらっしゃったのが、コムデギャルソンになったり、どんどんオシャレになっていくんです。どんどん変身されていくのが、私は楽しいです。心が自由になるっていうことですかね。

宝石っていうのは、キラキラしていたり気持ちが高揚するから皆好きなんですよね。
ですから、コンテンポラリージュエリーをつくるときも、そういうことを大切にするようにして制作しています。

米井:

松浦さんはアートジュエリーと一般のジュエリーとの壁を感じた事はありますか

松浦:

私自身が制作している時は、コンテンポラリーでつくっているとか、一般のジュエリーをつくっているとか、そういう境目の意識はあんまりないんです。
自分が良いと思うものをつくった時、それを人が見た時に「コンテンポラリーだね」って言われることがある、ということなんだと思います。
手に取ってくださった方が、それを着けて美術館に行かれたそうなんですけど、そしたら「どこで手に入れられるの?」と聞かれて、そこから会話が始まった、というようなことを言われるとすごく嬉しいですね。
普通は、全く知らない人と突然喋ることはできないと思うんですけれど、自分の作品を購入して下さり、その方が身に着けて下さったことがきっかけでコミュニケーションが生まれる。
私の作品を身に付けることでその人が、その様なものを好きで選ぶ人なんだっていうことになる。
そして、それを身に付けてる人は何か面白いなって他の人に興味を持って見てもらえる。
まるでジュエリーが声の無い言語を発しているような。。
そんなお役に立てたことが、嬉しいことだと思いますし、それがジュエリーの持つコンテンポラリーの意義かと思います。

米井:

青木さんはどうですか

青木:

ジュエリーって自分を象徴するものだと思うんですね。
自分の好きな質感や形はこんなものだったんだとか、前田さんの作品のようにストーリーがあるジュエリーが好きだったんだとか、作品を通して気づくことができる。
一般に売られてるような流行りのものだけじゃないジュエリーを身に着けることによって、それが、その人の新しい所長になれるんじゃないかなと感じます。

米井:

なるほど、そうですね。
私は最近、お店にいらっしゃるお客様と話していて感じるのは、結局ジュエリーを身に着ける、見せるっていうことは、多分「自分はこういう人間です」っていうようなことを、端的に表せるものであるのかなと思います。
また、それから長い年月の中で、自分の人生とどうやって向き合うかっていうものも含まれているんじゃないかって思えるんですね。
そこにはコンテンポラリージュエリーとかコマーシャルジュエリーの壁っていうのはないんじゃないかなと感じます。 また、アートやデザインの壁っていうのも、今は境界が曖昧になって来ていて、そういう垣根を超えて行けるキーワードが「アプライドアート」だったりするのかもしれない、と感じています。
今日の皆さんのお話で、アートとデザインが、コマーシャルジュエリーとコンテンポラリージュエリーが、工芸やクラフトが、様々な壁を超えて、「アプライドアート」という広いフィールドがあることで、一般の人に開かれたものになって行く感じがしました。
そして、閉塞感のある今だからこそ、きっと社会に必要とされている気がします。

この後、3人の作品の展示を参加者全員で鑑賞、非常に盛り上がりました。

Mineri Matsuura
 

Asagi Maeda
 

Manami Aoki

「アプライドアートの 波がきているらしい
日本にいながら海外で活躍するコンテンポラリージュエリー・アーティスト達のトークセッション」


松浦 峰里(Mineri Matsuura)

【松浦峰里プロフィール】 コンテンポラリージュエリー・アーティスト 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。

<海外受賞、選出> 2019年 ALLIAGES Legacy テクニーク賞 (フランス) / 2019年 Gioielli in Fermento 2019 Klimt02特別賞/AGC 特別賞(イタリア) / 2018年 Comineli Foundation Aword, Seconda menzione (イタリア) Gioielli in ferment(イタリア・2017)/2016(Italy, Spain, NY, SOFA Chicago)

<作品収蔵> Espace Solidor 美術館、カンヌ、フランス

<海外エキジビション等> 2019年 Gioielli in Fermento イタリア、リボルノ / Espace Solidor美術館Legacy Award 展覧会 フランス、カンヌ / lla ricerca della qualità イタリア、ピアチェンツァ

ウェブサイト http://mineri-matsuura.com/

前田 朝黄(Asagi Maeda)

【前田朝黄プロフィール】コンテンポラリージュエリー・アーティスト 東京造形大学彫刻科。GIA (Gemological Institute of America)/ FIT (Fashion Institute of Technology)卒業((NY)女子美術大学講師。

<作品収蔵> ボストン美術館(ボストン)/ ミュージアム オブ アーツ&デザイン(MAD)美術館(ニューヨーク)

<海外エキジビション等> -個展- Oeno Gallery/ プリンスエドワード、カナダ (2019)/松屋銀座(2019年) My day by day gallery /ローマ(2018)/Sieraad アムステルダム、オランダ (2018) おかりや/銀座、東京 (2018、2016)/Mobilia Gallery /ボストン、アメリカ (2017、2011、2008) -グループ展/展示会- Mobilia gallery/ボストン、アメリカ(2004〜2019)/「Loot」MAD美術館/ニューヨーク(2018,2014,2012,2011) Gallerie MAZRO/パリ、フランス(2017) /Galerie Diane et Eric Lhoste /ビアリッツ、フランス(2012) National Ornamental Metal Museum)、メンフィス、アメリカ(2010) /SOFA ニューヨーク、シカゴ、アメリカ (2004-2009)

ウェブサイト  http://www.asagimaeda.com/

Instagram https://www.instagram.com/morningyellow/

A day of a train  https://youtu.be/20Iw-JR3rJc

青木 愛実(Manami Aoki)

【青木愛実プロフィール】 コンテンポラリージュエリー・アーティスト
1995年長野県出身。2018年ヒコみづのジュエリーカレッジ卒業

<受賞> Galerie Marzee International Graduate Show (オランダ) プライズ2017・2018
白金5丁目アワード 2018年 2nd アワード / Talente 2019 受賞(ドイツ/ミュンヘンハンドワーク&デザイン展) / 伊丹クラフト展2019 グッドマテリアル賞

<エキジビション> Galerie Marzee International Graduation Show 2017/オランダ(2017) / OUR FAVOURITE SHOP/東京(2018) / Galerie Marzee International Graduation Show 2018/オランダ(2018) / Talente 2019/ドイツ(2019) / ギャラリーHole in the Wall 個展/東京(2019) / ギャラリー ATTA グループ展/バンコク(2019) / ギャラリーFriends of carlotta グループ展/スイス(2019)

Instagram @_manami__aoki_